CL、プレミアリーグ…トップクラブの苦戦理由を考える (1)ロングボールのメリット

イギリス紙「デイリー・ミラー」が、「The Premier League's most long ball teams revealed - two clubs are in for a shock(プレミアリーグで最もロングボールを使っているチームは?2つのクラブがショッキングな状況にある)」と題した興味深い時期を掲載しています。プレミアリーグ5節までに各クラブが出したロングボールの本数をランキングにすると、上位に好調の中堅クラブが軒並み名を連ねている、というお話です。

1位はどこだと思いますか?この夏は忙しくてあまり試合を観ておらず、過去の知識を頼りに答える方なら、ストークの名前を挙げるのではないでしょうか。あるいは、そのストークでゴツゴツしたサッカーを繰り広げて上位を困らせていたピューリス監督率いるWBAだ、という方もいらっしゃるかもしれません。ところが実際は、マーク・ヒューズ監督のストークの本数は下から2番めの75本なのです。いちばん少ないアーセナルが67本、ストークとマンチェスター・シティが並んで2位。次いで少ない順に、チェルシー、リヴァプール、ボーンマスと続きます。

この顔ぶれを見ると、首位にいるマンチェスター・シティを除いて、軒並み不調クラブです。ここまで3分け3敗と未勝利で、プレミアリーグ降格ゾーンにいるストークは、バルセロナやバイエルンでプレイした経験のある選手を数多く集め、つなぐサッカーへの傾斜を強めていますが、完成度を上げるのに時間がかかっているのが見てとれます。チェルシー、リヴァプール、アーセナルといった昨季プレミアリーグの上位は、思うようにゴールが奪えず、逆に思わぬ失点を重ねて苦戦しています。それぞれに不調要因はありそうですが、ロングボールの多寡と、ゴールの少なさや失点の多さに関連性はあるのでしょうか。これを考える前に、ロングボールが多いクラブの顔ぶれと状況を見てみましょう。

ロングボールを多用しているクラブを見ると、1位が現在プレミアリーグ3位につけているウェストハムの174本で、これはアーセナルの2.5倍相当。2位がワトフォードの171本で、以下、サンダーランド、WBA、138本のレスターとなります。こちらは、最下位のサンダーランドを除いて負け越しクラブはありません。レスターは5位につけており、プレミアリーグ昇格直後のワトフォードはTOP10に入る大健闘。ロングボールの下位ランキングと見事なコントラストを描いています。この状況は、偶然と切り捨てるわけにはいかないでしょう。彼らはロングボールによって、2つのメリットを享受しているのではないかと思われます。ひとつは、「強者と弱者の差を無力化すること」。そしてもうひとつは、「攻撃のスピードを上げること」です。

試合のなかでロングボールが上がるシーンを想像してみましょう。前線に張っているストライカーとCBを競らせる、いわゆる「放り込み」。あるいは、自陣でボールを奪取して、相手の陣形が整っていないのを突いて一気に少人数で攻めるカウンター。前者は、ボールを競り合う瞬間は、足元の技術や守備組織の強度が関係ないイーブンの状態になり、運も手伝ってこぼれ球が落ちた場所に味方がいれば、シュートチャンスを得られます。放り込みを続ければ相手はラインを上げにくくなり、陣形が下がったり中盤が間延びすることもあります。ダヴィド・シルヴァやカソルラのような背が低い選手の頭上をボールが行き来するような展開に持ち込めば、司令塔の背中に「競れない選手」「傍観者」というシールを貼ることもできるかもしれません。昨日のプレミアリーグ第6節、2-3で逃げ切ったマンチェスター・ユナイテッドは、クーマン監督のサウサンプトンに、放り込みでラスト10分を完全に支配されました。ピューリス監督が、ストーク、クリスタル・パレス、WBAにインストールした「弱者の戦術」は、徹底度を高めれば時折強いチームを疲弊させ、困惑させることができるのです。

後者のカウンターのほうはいわずもがなですが、「ロングボール上位」のレスターが使う長いフィードの多くは、180センチに満たないジェイミー・ヴァーディ、リヤド・マフレズを縦に走らせるものです。岡崎慎司も含めて、このチームの前線は、「プレミアリーグでは屈強なストライカーが好まれる」という定説をくつがえすような小回りの利く小男の集まりです。こちらもまた、ポゼッションが圧倒的に高い強者に対抗する有効な手段です。6人対6人でせめぎ合っても崩せない守備も、2人対2人なら一発かわせれば即、フィニッシュ。サイドを主戦場とするドリブラーであるマフレズが、プレミアリーグ得点王争いのトップにいるレスターは、「攻撃のスピードを一気に上げて少人数同士の勝ち負けに持ち込む」戦術を成功させているのでしょう。

こうして見ると、ピューリス監督のWBAのメンバーが味わい深いものに見えてきます。放り込みに強い屈強なタイプのアニチェベとリッキー・リー・ランバート、カウンターで威力を発揮するサイド・ベラヒーノ、186センチの長身でありながらオールラウンダーのサロモン・ロンドンと、最前線には代表クラスを揃えながら、中盤を見ると無名の選手や峠を過ぎたベテランばかり。このチームがゴールを狙うとき、ボールが出てくるのはトップ下からではないのは明白です。アルナウトヴィッチやボージャン・クルキッチがおり、さらにシャキリやアフェライ、ファン・ヒンケル獲得で中盤をぶ厚くしながらストライカータイプはホセルしか獲らなかったストークは、WBAの動きと逆行しているようにみえます。彼らのつなぐサッカー志向は、成功すればスウォンジーのような美しいチームになる可能性がありますが、熟成に相当の時間を要するはずです。ロングボールやカウンター主体の戦術のほうが、手っ取り早く成果を出しやすいのは間違いありません。私は、ピューリス監督が降格しそうなチームに呼ばれて短期間で立て直せるのは、余計なことをせずに「弱者のサッカー」を徹底させるからだと見ています。

「デイリー・ミラー」は、「ロングボールは芸術性がないと侮辱されやすいけど、ホント?」というトーンで数字を語っていますが、ロングボール主体のサッカーとつなぐサッカー、ポゼッションとカウンターは、わかりやすく話をするために対比させられることが多いだけであり、実際はゼロか100かではなく、それぞれをどう組み合わせるのかポイントでしょう。ウェストハムの現在の強さを支えているのはランジーニやヴィクター・モーゼスを主体としたサイドからの仕掛けですが、パイェという素晴らしい司令塔がおり、長短のパスを織り交ぜながらカウンターもサイド攻撃も仕切れるところにプレミアリーグ2位の12ゴールがあるのだと思います。

いろいろ見ていくと、リヴァプールとチェルシーの苦戦理由のひとつとして、「長いボールからの速攻が減ってしまった」こともありそうです。前者はジェラードが去ったうえに、前線に効果的なロングが出せるヘンダーソンやララナ不在の時間が長く、後者はセスクが不調です。彼らが気持ちよく勝つ試合の多くは、大事な場面で速攻が決まっています。ジエゴ・コスタが1ゴールに留まっているのは、彼自身の動きの問題もあるのかもしれませんが、得意なボールが出てこないのも一因ではないでしょうか。そしてまた、アーセナルの苦戦ぶりも象徴的です。クヤテ、ズマ、ザグレブのジュニオール・フェルナンデスと、FKやCKからの長いボールで3つもゴールを喰らい、チャンピオンズリーグのディナモ・ザグレブ戦では、ビハインドを背負ってからのカウンターに散々苦しめられました。

サグレブといえばチャンピオンズリーグです。「ロングボールの多い・少ない」「ポゼッションとカウンター」の話のなかに、3チームが初戦で討ち死にしたチャンピオンズリーグとの絡みもあるような気がしています。というのは、最近、ジェイミー・キャラガーさんが「欧州のクラブはイングランドのようなスピーディーで攻撃的、そしてフィジカルの強いサッカーが苦手だ」というコメントを残しているからです。ずいぶん話が長くなりました。次稿で、リヴァプールOBの興味深い分析を紹介しながら、プレミアリーグのトップクラブがチャンピオンズリーグでも苦戦している理由について考えてみたいと思います。

「CL、プレミアリーグ…トップクラブの苦戦理由を考える (2)欧州で勝つために足りないこと」に続きます。


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プレミアリーグがとりわけ好きなのは間違いありませんが、チャンピオンシップ、セリエA、ブンデスリーガ、リーガエスパニョーラ、チャンピオンズリーグ、ヨーロッパリーグはもちろん、Jリーグ、なでしこリーグ、高校サッカーまで何でも観ます。今季のプレミアリーグで、特に活躍を期待している選手は、ダヴィド・デ・ヘア、マーカス・ラシュフォード、メスト・エジル、モー・サラー、エリクセン、ムヒタリアン、岡崎慎司、吉田麻也です。

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